Dr.平野の医学コラム第4号

29.06.16 / 医学コラム / Author:

「自然死」、昔から“老衰”とか“大往生”と言われてきた

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人の死は「心臓死」であるが、ときには病院では心臓が動いているのに、いきなり「脳死」にしてしまう。最近

「自然死」という言葉をよく耳にする。「自然死」とは、平たく言えばほとんど医療を行わない死のことである。

でも見放したり、ほったらかしにするのではない。無益な延命治療をせずに、自然の過程(なりゆき)で死にゆく

人を温かく見守りながら最後を看取るのである。人体は60兆個の細胞からなる。その細胞の死には「アポトーシ

ス」と「ネクローシス」の二つがある。「アポトーシス」とは遺伝子で定められた細胞自身の“自殺”である。細胞

が委縮して痕を残さずに綺麗に消え去るのである。「ネクローシス」は病的な細胞の死で“他殺”である。死んだ痕

は炎症反応が生じて、様々な症状(苦痛を伴う)を引きおこす。各細胞は必要に応じてエネルギー(ミトコンドリ

アで生産するATP)を産生し、そして同量を消費する。60兆個の細胞が一日に産生する総ATP量は人体の体

積に匹敵するが、その日のうちにこれをすべて消費する(炭酸ガスと水だけを残す)。エネルギーを産生して消費

すること、これが細胞の“生きる(生命)”ことである。ATPの生産は“細胞内呼吸”といって、糖質などの栄養素

を酸素で燃やして産生される。だから呼吸で酸素供給が絶たれると細胞は即死(ネクローシス)であるし、栄養物

を体に取り入れないといずれ細胞は死んでしまう。だから絶えず呼吸をし、一日3回の食事が欠かせない。人は食

べなくなったら(食べられなくなったではない)死への準備態勢に入る(航空機の着陸態勢に似ている)。いよい

よ食物を口にしなくなると、死の最終態勢(最終着陸態勢)に入る。“心臓と肺(心肺)”を除く臓器・組織の細胞は

心臓が止まる前には仮死状態にあり、最後に心肺が停止すると穏やかな「ネクローシス」に至る。細胞の“ネンネン

コロリ”が人の「自然死」であり、昔から“老衰”とか“大往生”と言われてきた。死の準備態勢に入っているのに、経

管栄養や胃瘻などで人工的に栄養を補給すると「自然死」ではなくなり、航空機が飛行場の上空で旋回しているよ

うなものである。

 

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